未来都市へ 実学の力

読売新聞大阪本社版朝刊

人工知能(AI)などの先進技術を活用した都市・スマートシティーの研究が進んでいる。大阪府立大(堺市)は昨年、「スマートシティ研究センター」を設け、2022年春に大阪市立大と統合して生まれ変わる予定の大阪公立大で産学官一体での発展を目指している。同大学長予定者でもある辰巳砂昌弘・府大学長と、先進技術による府民の生活の質向上を掲げる吉村洋文府知事が、未来都市の実現に向けて公立大の果たす役割を語り合った。 (聞き手・編集委員 沢田泰子)

行政の協力 強み 万博が実験場

大阪府立大 辰巳砂 昌弘学長 × 大阪府 吉村 洋文知事

AI研究室

府大ではスマートシティーに関連する研究をどのように進めているのか。
辰巳砂府大は研究成果を産業界とともに社会で実現してきた歴史があり、スマートシティーはその集大成ととらえている。昨年11月に「スマートシティ研究センター」を設置し、産業界や大阪府、大阪市、堺市との連携を活発化させている。21年度にはドイツ人工知能研究センター(DFKI)の研究室が府大の中百舌鳥(なかもず)キャンパス(堺市中区)に開設される。AIに関するドイツ最大規模の研究所で、国外初めてのラボになる。DFKIとも協力しながら、テクノロジーを持続可能な都市開発に生かせるようにしたい。
対談する辰巳砂学長(左)と吉村知事。
間にアクリル板を置き、距離を置いて語り合った(2月)
―長沖真未撮影
府もスマートシティーを推進している。府大に期待することは。
吉村今回の新型コロナウイルスでいかに日本全体のデジタル化が遅れているかが明らかになった。今後人口が減少し、少子高齢化が進む中で、増税ではなく、新しい技術によって府民の生活の質を高めることが必要になる。府は昨年、「大阪スマートシティ戦略」を策定し、民間と自治体、大学などで「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」を発足させた。ヘルス、子育てなど16のプロジェクトで、大阪全体をスマートシティー化しようと取り組んでいる。府大はもちろん、市大の強みも掛け合わせ、ぜひ力を発揮してもらいたい。

多様なデータ

来年開学予定の大阪公立大では、研究をどう発展させていくのか。
辰巳砂中百舌鳥キャンパスには、現在の市大の工学部を順次移転し、府大と合わせて大規模な工学部をつくる。農学部、文理融合の現代システム科学域もあり、環境・エネルギーやものづくりの拠点になる。産学官で共同研究をし、人材を育て、スタートアップ(新興企業)も育成する「イノベーションアカデミー構想」を打ち出すつもりだ。この構想を25年に開設する森之宮(大阪市城東区)のメインキャンパスにつなげ、大学が先導役となって大阪城東部地区をスマートシティーにしていく。
吉村大阪の街は南北軸が中心だったが、東西軸も強めたい。西の拠点の夢洲(ゆめしま)では25年に大阪・関西万博が開催され、未来社会の実験場となる。東の拠点が森之宮。大学が立地することで新たなものを生み出してほしい。特に、行政に提案する「都市シンクタンク機能」、新技術を生み、大阪の産業の競争力を強化する「技術インキュベーション機能」を期待している。
辰巳砂私も、自治体との連携は大阪公立大の強みになると思う。自治体には福祉や教育など多様なデータがある。透明性、中立性が高い大学が中心となり、データを活用する仕組みをつくる。大阪で始め、全国、世界でも共有したい。
吉村なぜ今、規模を縮小せずに府大と市大を統合し、国内最大の公立大とするのか。公立大は国立大の二番煎じであってはならないし、私立大とも違う。大阪府・市との連携をより強くしたい。都市型の公立大を目指してほしい。
大阪府立中百舌鳥キャンパス

チャレンジ

そうした研究を実現するには、どんな人材を育成するべきだと考えるか。
吉村新たなものにどんどんチャレンジしていき、大阪や日本、世界に貢献する人材を育ててもらいたい。経済的な理由で大学に行くのをあきらめずにすむように、昨年、国の制度よりも対象者を広げた授業料無償化を府大、市大で始めた。大阪公立大でも継続する。卒業生は大阪だけでなく、世界で活躍してほしい。人材を輩出することで大阪の都市力を高められる。大阪以外の人からも選ばれる大学であってほしい。
辰巳砂府大は実学を重んじ、産業界のリーダーとして活躍できる人材を送り出してきた。大阪公立大では起業を志す人の支援にも力を入れたい。すぐには成果が出ない基礎研究をするのも大学の役割で、ノーベル賞を受賞するような研究を目指す人も支えていく。様々なチャレンジングな人を育成したい。 (敬称略)
PROFILE
たつみさご・まさひろ
1955年生まれ。80年大阪大大学院工学研究科博士前期課程修了。工学博士。大阪府立大教授などを経て2019年から同学長。大阪公立大の学長予定者で、任期は22年4月から25年3月。
よしむら・ひろふみ
1975年生まれ。98年九州大法学部卒業。同年司法試験合格、2000年弁護士登録。11年大阪市会議員に初当選。14年衆院議員、15年大阪市長。19年から大阪府知事。

大学自体を実践の場に

スマートシティーの実現に向け、国内外の研究機関や自治体、企業が取り組みを始めている。 (生活教育部 佐々木伶)

大阪府立大は2017年、先進的な学習方法を実践しながら研究する「スマートクラスルーム」を大学内に設置した。ドイツ人工知能研究センター(DFKI)と連携し、視線の動きを感知する眼鏡をかけることで、問題にどの程度の確信を持って正解したのかを調べる研究などを進めてきた。間違えた問題だけでなく、たまたま正解した問題も復習を促し、学習効果を高める狙いがある。

DFKIは、ドイツ西部のカイザースラウテルンに本部があり、1988年に官民の出資で設立された。応用研究を得意とし、世界の人工知能研究を先導してきた。グーグルやマイクロソフトなどのグローバル企業が株主だ。NECなど日本企業と共同研究を実施してきた実績もあり、府立大内に研究室を開設する計画が進む。「スマートシティーの分野や医療、バイオテクノロジーの研究で密接に協力したい」とアンドレアス・デンゲル・DFKIカイザースラウテルン・エグゼクティブディレクター=写真=。連携がさらに強まることが期待される。

共同研究を推進してきた府立大の黄瀬浩一教授は「スマートクラスルームのような学習支援実験など、大学自体が実践の場である『スマートユニバーシティー』となって先進例を示し、メリットを感じられるようにしたい。そうなれば、街全体のスマートシティー化への機運も高まる」と話す。

国内でも、スマートシティーの実践は始まっている。堺市は2019年10月、高齢化の進む泉北ニュータウンで、自動運転の小型車の走行実験を実施した。今後もリモートワークやICT(情報通信技術)を活用した健康増進などに力を入れる予定で、24年度に移転してくる近畿大医学部との連携も視野に入れている。

トヨタ自動車は、専用道路を作って自動運転車を走らせるなど、先進技術の実証実験をする「ウーブン・シティ」構想を掲げる。今年2月、静岡県裾野市で建設に着工。当初は子育て世代や発明家ら計約360人が住む予定で、将来的には約2000人が暮らす街にする計画だという。

視線の動きを感知するセンサーが付いた眼鏡を手にする黄瀬教授(大阪府立大で)

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