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食withフォーラム 見直そう、日本食文化-高野豆腐でおいしく健康に-

ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食日本人の伝統的な食文化」に関心が高まっている今、その魅力について理解を深めようと、「食withフォーラム 見直そう、日本食文化 —高野豆腐でおいしく健康に—」が12月9日、大阪国際会議場(大阪市北区)で開かれました。医療、食などの3人の専門家が登壇し、日本食文化や高野豆腐の健康的価値、幸せで長生きする秘訣などについて語り合いました。

第1部:基調講演 幸せで、健康で、長生きの秘訣 -高野豆腐の力-

鎌田實さん 医師・作家

食べることの尊さを学んだ少年時代

比較的脳卒中の多い地域だった長野県に赴任し、地域医療に取り組んできた原点、それは18歳の夏に義父から言われた言葉です。
 孤児だった私を育ててくれた義父母は、決して裕福ではありませんでした。いつもおなかをすかせていた私は近所の人の親切で、ご飯を食べさせてもらうこともあり、一緒に食卓を囲み、「おいしいなあ」と心から思いながら、食べられる幸せをかみしめていた少年時代でした。食べることは人と人とを結びつけ、つらさや喜びを分かち合えることを、この時に学んだような気がします。
 そんな私が医師を志し、大学に進学したいと打ち明けた18歳の夏。義父は経済的な理由から反対しました。激しい言い争いの末、義父は涙ながらに私に「自由に生きろ。そして、うちみたいな貧乏な家が医者にかかるときの思い、弱い立場の人たちのことを忘れるな」と言ったのです。この言葉を胸に刻んで39年間、医師として地域医療や被災地支援に取り組んできました。
 その中で、「医師の使命は救命がすべて」と思っていた私は、せっかく救命した脳卒中患者が寝たきりになることが多い現実に直面し、病気を予防することの大切さに気づきました。以来、地域住民を対象とした健康づくり運動を実践してきました。この取り組みが功を奏し、脳血管障害の患者が減少すると同時に、長野県の長寿日本一に貢献できました。

 私が定義する長寿は「幸せで、健康で、長生き」です。長野県が健康長寿になった理由は、減塩運動に取り組んだことと、野菜の摂取量が日本一多いことが挙げられます。また、長野県には高野豆腐を食べるという食文化があります。関西を中心に食べられている高野豆腐は栄養バランスに優れた健康食品であり、もっと全国に普及するべきだと思います。
 ある研究データでは高野豆腐には腸内で胆汁酸と結合し、余分なコレステロールを排出する作用がある「レジスタントタンパク」という物質が、他の大豆製品より多く含まれているとされています。従って、高野豆腐のようなレジスタントタンパクを多く含む製品を食べ続けることで、総コレステロールや悪玉コレステロール、中性脂肪の血中濃度を低下させる効果が期待できます。
 また、高野豆腐には骨を強くする大豆イソフラボンやカルシウム、リンのほか、食物繊維、貧血になりにくくする鉄、新陳代謝に必要な亜鉛が豊富に含まれており、優れた栄養バランスの食事として評価の高い和食の中でも代表的な食材です。

生きがいを持つことも長生きの秘訣

 若々しく、健康で長生きするには食生活や運動だけではなく、心の安寧も大切な要素です。人間が幸福感を感じるには、「セロトニン」と「オキシトシン」という二つの "幸せホルモン" が重要な役割を果たします。「セロトニン」はおいしいものを食べたり、美しい風景を見て感動した時に脳内に分泌されます。「オキシトシン」は人のために何かをして、自分は役に立っていると実感した時に分泌されるホルモンです。赤ちゃんに授乳している時にお母さんが幸せを感じたり、誰かのために働き、喜んでもらうことに生きがいを感じるのは、このホルモンが関係しており、幸福感をもたらすだけでなく、ストレスを緩和させる効果もあると報告されています。
 ストレスの多い現代社会で健康で長生きするには、高野豆腐をうまく取り入れた和食中心の食生活を心がけ、生きがいを持つことが大切ではないでしょうか。そして、私たち日本人が受け継いできたすばらしい食文化を再認識し、次世代に伝えていくことが今、求められていると思います。

プロフィール 医師・作家 鎌田實さん

東京医科歯科大学医学部卒業。赴任先の長野県・諏訪中央病院で30歳代で院長に就任。地域医療ひとすじに取り組み、長野県の長寿日本一に貢献。ボランティアで障がい者と旅するバリアフリーツアーを企画し、自ら参加する一方、チェルノブイリ、イラク、東日本大震災などの被災地支援にも力を注いでいる。

第2部:パネルディスカッション 見直そう、日本の食文化-高野豆腐でおいしく健康に-

パネリスト:廣田孝子さん・白井操さん コーディネーター:鎌田實さん

廣田孝子さん 京都光華女子大学健康科学部 健康栄養学科教授

身近な食材にすばらしい栄養が

 私たち日本人が世界一長寿である理由のひとつに日本食が挙げられます。日本食は低カロリーで脂肪が少なく、主食がお米であるということ、そして海産物や大豆製品や野菜を献立によく取り入れていることが特長です。
 ところが日本食には欠点もあります。塩分過多とカルシウム不足に加えて、高齢者では特に良質のたんぱく質が不足しています。これらは骨を作る土台になる重要な栄養素ですが、不足することで骨がもろくなる骨粗しょう症にかかりやすくなります。
 高野豆腐はたんぱく質やカルシウムが豊富なだけではなく、細胞の合成に必須な亜鉛、認知症の予防が期待されるコリン、血管を若々しく保つω–3脂肪酸などが多く含まれています。高野豆腐の栄養構成また、女性が高野豆腐を1個半(約25g)食べることで、厚生労働省が推奨する1日に必要なたんぱく質の24%、カルシウム24%、鉄15%、亜鉛14%、コリン28%、ω–3脂肪酸28%が充足されることがわかっています。
 さらに、高野豆腐の原料である大豆には抗酸化作用が高いとされるイソフラボンが多いのも特長です。体内に活性酸素が発生して酸化が進むと、老化を促進するだけではなく、生活習慣病、アルツハイマー病など多くの病気の原因になる可能性が高いことが指摘されています。
 暦の年齢は生理的な年齢とは異なります。見た目が若い人は長生きできるというデータもあり、食事や運動、休息を含めた毎日の生活習慣が、いつまでも若々しく、健康で長生きできる秘訣だと思います。
 私たちは昔から食べていた身近な食材にすばらしい栄養があることを忘れがちです。健康で生き生きと楽しい毎日を過ごせるように日常の食生活から見直してみることが大切だと思います。

白井操さん 料理研究家

伝統的な食文化の継承が課題

 私は「楽しく作って、楽しく食べる」をテーマに活動してきましたが、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことで、改めて食文化を伝える料理の役割の大切さを実感しました。
 和食の中でも滋養に富み、伝統的な食材である高野豆腐は、関西人にはなじみが深いですが、北海道・東北・甲信越地方では「凍み豆腐」「凍り豆腐」と呼ばれています。近年は改良が進んで、昔のように水を何回も入れ替えて戻すという手間がなくなり、だし汁に直接入れて煮炊きしても煮くずれることが少なくなりました。
 また、高野豆腐には多様な調理法があります。高野豆腐をおろし金でおろして粉末にしておくと料理のバリエーションがぐんと広がります。例えば、ゆがいたニンニクに豚肉やみそを加えて肉みそを作る時、高野豆腐の粉を入れることでニンニク独特のにおいが抑えられます。また、果実を十分に煮たところに高野豆腐の粉を入れるとペースト状になり、冷めてからハチミツなどで甘さを調節すると簡単でおいしく、ヘルシーなジャムの完成です。
 高野豆腐をより身近な食材にするために、煮物や鍋料理のときは、煮汁やだし汁の摂取を控えめにし、残った煮汁やだし汁を活用して高野豆腐を炊けば、手軽なおかずとして重宝します。野菜を添えれば栄養バランスも良くなり、数日単位では塩分摂取を抑えることもできます。
 伝統的な食文化を継承していくことは、日本人にとって大きな課題です。一昔前は近所同士で "高野豆腐の炊いたん" や、ちらし寿司、豆腐の白和えなどを互いにおすそ分けし、コミュニケーションをうまく図っていました。私たち現代人もこれにならい、おすそ分けしてみると若い人とも会話が始まり、ご近所の絆を育むきっかけになるかもしれません。
 おいしいものは人を幸せにしてくれます。「おいしいもの」で人と人をつないでくれる日本の "おすそ分け文化" 、とても素晴らしいと思いませんか?

鎌田實さん 医師・作家

おいしいものを食べて心豊かに、幸せに

「たんぱく質カロリー欠乏症」が最近、注目されています。「粗食が健康にいい」という説や、あるひとつの食材だけを食べ続ける「〇〇ダイエット」が紹介されるようになった影響で、男女ともに日本人のカロリー摂取量が減少傾向にあります。特に高齢者のたんぱく質摂取量の低下は顕著です。良質なたんぱく質は肉や魚、豆腐などの大豆製品に多く含まれていますが、なかでも高野豆腐のたんぱく質は1個(約16・5g)で牛乳1本と5分の1に相当し、手軽においしく食べられます。
 「メタボ」という言葉がひとり歩きして、「カロリー制限」「ダイエット」といった強迫観念に縛られた食生活を送っている人は少なくないでしょう。しかし人間はおいしいものを食べることで心が豊かになり、幸せに生きられます。栄養バランスがよいうえにおいしく、可能性に満ちた高野豆腐が、もっと日本中で食べられるようになり、日本人みんなが健康で長生きできることを心から願っています。

プロフィール

神戸女学院大学家政学部卒業。大阪大学大学院医学研究科修了(栄養学専攻)。ボストン大学医学部、米国国立衛生研究所、辻学園栄養専門学校教授、大阪大学非常勤講師を経て2009年より現職。医学博士、管理栄養士、健康運動指導士。日本骨粗鬆症学会、日本栄養・食糧学会、日本栄養改善学会評議員。

「食からはじまる心豊かな暮らし」をテーマに、誰もが気軽に料理を楽しめるレシピやアイデアなどを広く提案。20年間、NHK「きょうの料理」講師を務める。ひょうご「食」担当参与として、生産者と消費者をつなぐ橋渡しや県内の食材の掘り起こしにも取り組んでいる。近著に「五国豊穣 兵庫のうまいもん巡り」など。