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10月28日(日)開催

フォーラム「みんなで考えよう。『食』のいまとこれから」

「食with」フォーラム「みんなで考えよう。『食』のいまとこれから」が10月28日、大阪市北区のヒルトン大阪で開かれました。読売新聞が、京都女子大学栄養クリニックと展開する「食with」プロジェクトの一環。子どもの食育をメーンテーマに、教育、家庭、生産のそれぞれの立場から、食の現状と課題を考えました。また、京都女子大学家政学部食物栄養学科の学生らが、食育クイズや骨密度測定で、参加者の健康への意識を高めました。

開会挨拶 田中清氏 京都女子大学家政学部食物栄養学科教授 栄養クリニック長

京都女子学園は幼稚園から大学院まで同じ敷地内にそろう、全国でも珍しい環境を有します。この恵まれた条件を生かし、京都女子大学栄養クリニックでは開設当初から、子どもの食育を重要な柱に据えています。
大学の使命は教育と研究、そして社会貢献です。今回、読売新聞と取り組む「食with」プロジェクトもその活動のひとつです。栄養クリニックでは、これからも子どもから高齢者まで、幅広く健康増進に役立つ事業を展開します。

基調講演 「未来を育てる食育のすすめ」 坂本 廣子さん 料理研究家

料理は五感を使う体験学習

昨今指摘される学力低下の背景に、子どもを守る概念の変化があると感じます。火事が怖いから火器を触らせない。危険だから庖丁を持たせない――。でも、本当に子どもを守りたかったら、子ども自身に自分で判断する力をつけさせる必要があります。
判断の土台を作るのは基礎体験です。私が主宰する「キッズ・キッチン」は一見すると料理教室ですが、実は料理というプロセスを通して子どもの判断力を培うのが目的です。教室では、一汁二菜の献立を最初から最後まで子どもだけで作る体験をします。だしは天然の利尻昆布、カツオ節は本枯れ節など、素材は必ず本物を使い、包丁もよく切れるものを持たせます。子どもが最初に出会う基礎体験は本物でなければならない。偽物でスタートしては判断を誤ります。
本物を知った子どもは偽物が区別できます。心から「おいしい」と味わえば、「まずい」が分かります。体験は体験のままで終わらせず、大人が必ず、耳慣れたその土地の言葉で正確に伝えなければなりません。言葉と結びついて初めて体験は整理された形で頭に残り、筋道だって物事を考える本当の“生きる”力となるのです。
記憶力が発達する6歳くらいまでに、たくさんの本物体験をさせることは大人の責務です。体験こそが子どもの脳の発達や未来を決定づけるといっても過言ではない。子どもを守ろうとするあまり体験を奪えば健やかな成長は阻害され、結果的に学力も伸び悩むでしょう。「視」「聴」「嗅」「味」「触」の五感のうち味覚まで使うのは料理だけ。料理は、五感を刺激する優れた体験学習なのです。

トークセッョン 「みんなで考えよう。『食』のいまとこれから」

パネリスト
坂本廣子さん 料理研究家
堀ちえみさん タレント
近藤けいこさん 近藤けいこナチュラルベジタブル
木戸詔子さん 京都女子大学名誉教授、栄養クリニック指導員
コーディネーター
上田千華さん フリーアナウンサー
家庭で取り組む「食」
  • 上田:日本には世界でも珍しい食育に関する基本法があるのですね。
  • 木戸:生活習慣病の増加や子どもの学力低下など、様々な問題の根本に「食」の揺らぎがあり、今、食育に取り組まなければ日本は心身共に病んだ国になるという強い危機感に押されてできたのが「食育基本法」です。現在、進行中の第二次食育推進基本計画は、家庭での共食を通して、子どもの食育を提唱しています。
  • 上田:仕事を持つ堀さんは、食事作りや、家族そろって食事をとるのが大変では。
  • 堀:段取りよくやればなんとかなるものです。時間があれば手の込んだ料理を作るし、子どもが「やりたい」と言えば一緒に作ります。上の子ども3人は1人暮らしですが、自分で作った肉じゃがや味噌汁の写真をメールで送ってくるんです。小さいころから料理をやらせてよかったな、と思いますね。
  • 坂本:自分のご飯がまかなえるのは自立の第一歩です。全く経験がないことは、大人になってやろうとしてもできないが、子どものころ経験した土台があれば、途中で遠ざかっても戻れるんですね。
生産現場から見る「食」
  • 上田:生産者の立場からいかがでしょう。
  • 近藤:鈴鹿山脈のふもとで農薬を使わない、種から育てる、土作りを重視する――というこだわりの野菜作りをしています。栄養価が高く、味が濃いのが特徴で、種から育ってまた種を残す野菜の営みに命の輝きを感じます。見学に訪れる家族連れも多く、子どもたちは畑を駆け回って大喜び。野菜が大好きになった、という声を聞くとうれしいですね。
  • 坂本:私は神戸中央卸売市場本場で、「魚上手な子どもになろう!」という料理教室をしています。マグロの背骨からむき身をとって食べたり、生きたタコを料理したり。魚離れが指摘される昨今ですが、おいしさを実感したら、魚嫌いな子はいなくなるのではないでしょうか。
  • 堀:そういう体験は貴重ですね。売っている魚はほぼ切り身ですから。釣りをして丸ごとの魚を食べると、子どもたちは切り身より断然、味わって食べています。
  • 近藤:土に触れる機会が少なくなったのと、食に興味のない子が増えたのは関連があると感じます。職業体験でうちの畑に来る中学生は、野菜の実り方や自然の風の心地よさなどにいろんな発見があるようで、楽しそうに畑仕事に取り組んでくれます。
  • 木戸:いまや家庭の食材の7割は加工されて元の姿が見えにくい。若い人がネギとニラ、サバとアジを見分けられないのも無理ないです。食育には食べ物を選択する力も含まれます。賞味期限、消費期限は目安に過ぎず、食べられる、食べられないは自分の経験で判断すべきです。今の子どもは傷んだ食べ物を知らないために、見分ける力がない。これでは危険から身を守れません。
  • 坂本:清潔な環境に慣れ過ぎて、不潔が分からないのも気になります。もし災害などで病院が機能していない時に腐った食べ物でおなかを壊したら、命にかかわります。
教育現場から伝える「食」
  • 上田:教育の責務も大きいですね。
  • 木戸:食育を“生きた学び”として定着させるには、教育現場だけでは足りず、家庭、社会との連携がカギになります。栄養クリニックを地域の食育推進の拠点に育てたいですね。
  • 坂本:子どもに何かを伝えようと思ったら、最初から最後まで、大人が我慢して見守る必要があります。全部自分でやり遂げたとき、初めて「私ってすごい」という自己肯定感が得られます。
  • 堀:子どもを信じてやらせてみる、というのは子育て全般に通じますね。食を通して良い親子関係を築いていると、思春期に良い親離れ子離れが迎えられると思います。
  • 近藤:利便性や簡便性を求めるだけでなく、原点に立ち返って身体に何が必要か、私たちに何ができるかを考えながら、命のある野菜を作り続けていきたいと思います。
  • 木戸:食育の成果が出るのは20年くらい先かもしれません。今の子どもが食育を学び、大人になって家庭を持って、自分の子に食を楽しく伝えられる―それができて初めて、食育の成果が出たと言えるでしょう。
プロフィール
料理研究家 坂本廣子さん 「子どもの頃に経験の土台を」

幼児期からの食育を30年以上前から提唱。NHK教育テレビ「ひとりでできるもん」の生みの親でもある。

タレント 堀ちえみさん 「食を通して良い親子関係を」

7児の母。テレビ出演やトークショーなどで活躍。レシピブック「堀ちえみの子どもがよろこぶパパッ!と母ごはん」を出版。

近藤けいこナチュラルベジタブル 近藤けいこさん 「子どもの食への関心を高めたい」

三重県鈴鹿市で農薬完全不使用にこだわり、女性ばかり8人のスタッフで、カラフル野菜、ミニ野菜など年間250品種を育てる。

京都女子大学名誉教授 栄養クリニック指導員 木戸詔子さん 「20年先を見すえた食育を」

専門は臨床栄養学、食品蛋白質機能工学。長年、大学で管理栄養士育成に携わり人材を育成。

食育クイズ・骨密度測定 「管理栄養士をめざす学生も食の大切さを伝えました」

食育クイズ

フォーラムでは食物栄養学科の中山玲子教授と学生が「食育クイズ」を実施。「かんぴょうの原料は?」「カマンベールチーズとカツオ節の共通点は?」などの問題に、参加者が手持ちのカードを挙げて答えました。「日本の伝統食や食文化を意識して出題しました。食を堅苦しく考えず、興味の持てるところから親しんでほしい」と、大学院修士2年、郁芳玲子さん。

骨密度測定

一方、会場には骨密度測定コーナーが設けられ、学生たちが希望者の足に測定器を当てて、同年代の平均値と比較。栄養クリニック指導教員らが一人一人にアドバイスをしました。
食物栄養学科4年、山岡郁香さんは「自分の骨密度を知って、食生活を見直すきっかけにしてほしい」と言い、同4年、木村真美さんは「みなさん骨量がしっかりしていて、日頃の意識の高さを感じました」
栄養相談に応じた宮崎由子教授は「骨を強くするにはカルシウムだけでなく、骨の形成をよくするビタミンDやKも必要です。初めて測定した人が多かったので、良い意識づけになれば」と話していました。